国史跡に指定されている下坂氏館跡の虎口
(長浜市下坂中町)
7回で紹介した三田村氏館(長浜市)と並んで、国史跡に指定されている北近江の城館に下坂氏館があります。下坂氏は下坂庄の領主で、京極氏や浅井氏の家臣として活躍したことが古文書に残されています。浅井氏の滅亡後、下坂氏は織田氏の誘いを断って武士をやめ農民となりますが、江戸時代には郷士として彦根藩と関わりを持ちました。
城館は姉川から分かれて長浜平野を流れる五井戸川に沿った自然堤防上に位置しています。周囲を土塁、堀が囲む東西約89m、南北約87mのほぼ正方形の範囲内に、別の土塁によって囲まれる主郭(東西約55m、南北約42m)と、その北東側と南西側にある四つの副郭によって構成されています。主郭を囲む土塁の東側には幅約7mの虎口を設けてあります。南西側の副郭は一段高く、有事の際にここに立てこもったとされます。
また、館の東南部分は下坂氏の菩提寺である不断光院となっています。館跡内部には、18世紀前期に建築されたと考えられる主屋と門、不断光院の本堂などが所在し、往時の景観を維持しています。
長浜市教育委員会による確認調査では、14~16世紀の遺物とともに建物跡や土塁跡、排水路跡や階段状遺構などが検出され、その成果から14世紀から館跡が存在したものと想定されています。現在も遺構・景観をたもつ下坂氏館跡は、わが国の中世から近世にかけての地域支配のあり方を考える上で貴重なものとなっています。
現在も館跡にはご子孫の方が居住されているため、許可なく立ち入ることはできませんが、長浜市が実施した里山整備と文化財整備を兼ねた事業により、内部に繁茂した竹が間伐され、案内板などが整えられました。周囲のフェンスの外から見ても、土塁の形状などが捉えやすくなっています。
(滋賀県文化財保護課 上垣幸徳)